事業再構築補助金をご存知でしょうか。コロナ禍で経営が苦しくなっている事業者は既にご存知でしょうね。
これまで系列経営に頼ってきた企業は、航空機産業や観光業に代表されるように、コロナ禍で系列大手が打撃を受け、そのしわ寄せを受けて経営が厳しくなっている企業や事業主も多いことでしょう。
そのような企業・事業主を救済する手段として考えられたのが中小企業庁の「事業再構築補助金」です。今までの中小企業庁の補助金の予算はせいぜい1千億円規模でしたが、事業再構築補助金の予算は1兆円規模(1兆1,485億円)で、政府としてもこれに力を入れていることがわかります。
飲食店に対する休業要請、時短要請の援助は行われてきました。しかし、飲食店に関連する業種の援助はありませんでした。事業再構築補助金は、これら業種にも援助するために考えられた仕組みでもあります。しかし、単に援助するのではなく、事業の変革をするなどの努力が求められます。
この際、思い切って事業転換しようと考えている企業・事業主には強力な支援となることでしょう。
すでに4月15日から一次公募の申請受付が始まっています。一次公募の締め切りは4月30日です。二次公募は5月上旬に予定されています。全体で5回の公募が予定されているようです。
既に新しい事業を始めている「事前着手」でも申請できます。
コンテンツ
事業再構築補助金の概要
事業再構築補助金には申請要件があります。補助金の額や補助率も細かく設定されています。詳しくは次のPDFを参照してください。
事業再構築補助金の目的・対象
中小企業庁によりますと、事業再構築補助金の目的と対象は次のようになっています。
ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業等の思い切った事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
コロナの影響で厳しい状況にある中小企業、中堅企業、個人事業主、企業組合等を対象とします。申請後、審査委員が審査の上、予算の範囲内で採択します。
事業再構築補助金の補助額・補助率
中小企業に対しては、
通常枠: 補助額 100万円~6,000万円 補助率 2/3
卒業枠: 補助額 6,000万円超~1億円 補助率 2/3
卒業枠とは、400社限定。事業計画期間内に、①組織再編、②新規設備投資、③グローバル展開のいずれかにより、資本金又は従業員を増やし、中小企業から中堅企業へ成長する事業者向けの特別枠。
事業計画期間は3年~5年が予定されています。
中堅企業に対しては、
通常枠: 補助額 100万円~8,000万円 補助率 1/2(4,000万円超は1/3)
グローバルV字回復枠: 補助額 8,000万円超~1億円 補助率 1/2
グローバルV字回復枠とは、100社限定。以下の要件を全て満たす中堅企業向けの特別枠。
① 直前6か月間のうち任意の3か月の合計売上高がコロナ以前の同3か月の合計売上高と比較して、15%以上減少している中堅企業。
② 補助事業終了後3~5年で付加価値額又は従業員一人当たり付加価値額の年率5.0%以上増加の達成を見込む事業計画を策定すること。
③ グローバル展開を果たす事業であること。
となっています。
この他に、緊急事態宣言により深刻な影響を受けた中小企業や事業主を対象に、後から必要となって付け加えられた特別枠があります。
緊急事態宣言特別枠
通常枠の申請要件を満たし、かつ緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業や不要不急の
外出・移動の自粛等により影響を受けたことにより、令和3年1~3月のいずれかの月の売上高が対前年または前々年の同月比で30%以上減少している事業者。
従業員数 | 補助金額 | 補助率 | |
5人以下 | 100万円~500万円 | ||
6~20人 | 100万円~1,000万円 | 中小企業:3/4 中堅企業:2/3 | |
21人以上 | 100万円~1,500万円 |
|
最低賃金枠新設
10月からの最低賃金の引き上げに伴って、8月1日に「最低賃金枠」が設けられました。従業員の1割以上を最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業に投資額の最大75%を補助するものです。
受付期間は9月21日までです。
支給額の上限は、従業員数が51人以上の場合は8000万円に増額されます。適用対象は、2020年4月以降に売上高が減った企業に広がります。コロナ禍での減収を受け、業態転換に向けて既に投資を済ませた企業も支援対象に加えられます。
事業再構築補助金の申請要件
主要申請要件は次の3点です。
- 売上が減っている
- 事業再構築に取り組む
- 認定経営革新等支援機関†と事業計画を策定する
†認定経営革新等支援機関
次のサイトから検索できます。
つまり、地域の商工会や商工会議所の経営指導員、取引銀行、お世話になっている税理士に相談してみるとよいでしょう。
申請書を書くのはなかなか大変です。自信があったとしても、これらの人たちにチェックしてもらった方がよいです。
申請書は必ず本人が書く必要があります。代理人の代理申請ではだめです。
申請は電子申請です。そのためには、GビズIDの取得が必要となります。GビズIDの取得は次のサイトからできます。
GBizIDプライムアカウント発行まで3週間以上かかります。早めに取得手続きをしておくのがよいでしょう。
事業再構築補助金受給までのステップ
補助金受給までには次のステップを踏みます。
- 事業計画の策定
認定支援機関と相談し、事業計画の策定します。 - 申請
書類を準備して申請します。(電子申請) - 採択決定
事業計画申請が採択されます。 - 交付申請
採択された事業計画の補助金申請をします。 - 交付決定
補助金申請の対象になることが決定しましたという通知がきます。 - 事業計画の実施
設備の購入等をして補助事業を実施をします。 - 実績報告
補助事業の実績報告をします。 - 確定検査
交付額が確定されます。 - 補助金の請求
- 補助金の支払い
ここでようやく補助金を受給できます。
このように、補助金を受給するには長い道のりがあります。
ここで考慮していただきたいのは、事業計画どおり事業が進んだ時初めて補助金がおりるということです。それまでの事業資金は自分で出さないといけません。コロナで経営が思わしくない時に、これだけの資金を準備できる事業者は少ないと思います。ほとんどの事業者が取引銀行から資金を調達することになると思います。その間の利息も考慮しないといけません。さらに、事業計画どおりいかない場合は補助金がおりません。
そして、もう一つ念頭におかないといけないのが、この補助金に税金がかかるということです。補助金がおりた時に法人税約30%がかかります。圧縮記帳はできますが、その年には一時的に支出が発生することになります。
このことを念頭に、事業再構築補助金の説明をします。
詳しい情報
事業再構築補助金の詳しい情報は、こちらのホームページごらんください。
事業再構築補助金 (jigyou-saikouchiku.jp)
事業再構築補助金の公募要領はこちらです。
koubo001.pdf (jigyou-saikouchiku.jp)
さらに、実際に申請するには、こちらの事業再構築指針の手引きも精読する必要があります。
shishin_tebiki.pdf (meti.go.jp)
どのように書いたらよいの?
では、実際どのように書いたらいいのでしょう。
主要申請要件は次の3点でした。
- 売上が減っている
- 事業再構築に取り組む
- 認定経営革新等支援機関†と事業計画を策定する
このうち一番頭を悩ませるのが、2. 事業再構築に取り組む でしょう。具体的な事業再構築の方針を示さなければいけません。そしてこれを事業計画書に記述しなければいけません。その指針となるのが「事業再構築指針の手引き」の「事業再構築の定義」です。
事業再構築補助金の関係者の話によると、この補助金は、今までのような課題解決能力を問われるものではなく、状況定義能力を重要視しているということです。つまり、今どのように苦しんでいるかを説明し、そのために何をしたいのかを明確にすることです。
事業再構築の定義は、これからやろうとしていることが「事業再構築の類型」のどれに当たるのかに従って記述していかなければいけません。
事業再構築の類型は次のようになっています。
- 新分野展開 新たな製品等で新たな市場に進出する
- 事業転換 主な「事業」を転換する
- 業種転換 主な「業種」を転換する
- 業態転換 製造方法等を転換する
- 事業再編 事業再編を通じて新分野展開、事業転換、業種転換、
又は業態転換のいずれかを行う
それでは、それぞれの類型について考えてみましょう。
事業再構築の類型の共通要件
その前に各類型に共通する要件について見て見ましょう。
製品等の新規性要件
新規性要件と言われるのは、過去に同じ取り組みをしたことがないことです。自社として過去に同じ製品を作ったことがない、同じ製造方法で製造したことがない、同じサービスを提供したことがないことを意味します。注目点は、革新性のような他社でも出していない新製品とか製造方法、全く新しいサービスでなくてもよいということです。自社として新しい取り組みであればよいということです。
次に求められる要件は、新しい製品等に用いる主要な設備を変更することです。この設備投資のために補助金が使われることになるわけです。
新規性のもう一つの要件は、「定量的に性能又は効能が異なること」です。定量的に計測できる場合は、強度、耐久性、速度などが向上することが必要です。
市場の新規性要件
市場の新規性とは、既存製品・サービスと新製品・サービスの代替性が低いことです。代替性が低いとは、既存製品等が新製品等にとって代わられないことです。売上高で見ると、新製品等が現れることによって、既存製品等の売上高が変わらないことです。
なぜなら、新製品等が現れることによって既存製品等の売り上げが落ちたら、自社の全体的な売上高は上がらないからです。
「業種」「事業」とは?
「業種」は、「総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業」つまりこれですね。
総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)-目次 (soumu.go.jp)
「事業」は、「総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類の産業」とは、例えば「製造業」ならば、このようになりますね。(「製造業」をクリックすると表示されます)
総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)-分類項目名 (soumu.go.jp)
大まかなイメージは、指針の手引きの最終ページ「11. (参考)日本標準産業分類とは」にあります。
「主たる」とは?
「直近決算期における売上高構成比率の最も高い業種とか事業」を意味します。いろいろな業種、事業を展開している場合、売上高のもっとも多い業種や事業ということになりますね。
事業再構築のために投資が必要なこと
補助金を受けるわけですから、新たな投資が必要です。同じ設備、同じ方法を使って事業を始めるのでは新たな投資が要りませんから、補助金を受ける資格はありませんね。
そして、事業再構築のための新たな投資額を数値で明確にすることです。納得のいく数値を示すことです。
事業再構築類型別の具体的記述
それでは、事業再構築類型に従って、事業再構築補助金の具体的記述のしかたを考えてみましょう。
新分野展開
事業再構築指針の手引きによると、
「新分野展開」とは主たる業種又は主たる事業を変更することなく、新たな製品等を製造等し、新たな市場に進出することを指します 。
「新分野展開」に該当するためには、「製品等の新規性要件」、「市場の新規性要件」、「売上高10%要件」の3つを満たす(=事業計画において示す)必要があります 。
です。
メインの業種・事業はそのままで、新しい製品を作り、新しい市場に進出することになります。
あくまでもメインはそのままなので、例えば日本料理を多店舗展開している事業所が、1店舗だけ日本料理以外の店にするような場合があてはまるでしょう。ただし、新しい料理の店がメインになることはありません。
もう一つの要件は、新分野で売上高10%アップをめざす必要があります。
新分野展開の要件をまとめると次の3つになります。
- 製品や製造方法、サービスの新規性要件
- 市場の新規性要件
- 新分野での売上高10%要件
新製品(サービス)と言えるためには、性能や効能の違いが示せるものは定量的に示す必要があります。例えば、強度、精度、耐久性などが何%アップするといったことを数字で示すことです。
製造方法の新規性とは、既存の設備で製造できるものはだめということになります。再構築補助金を受けるには新しい設備の構築が必要となります。その費用に対して補助金が支払われるからです。
新分野での売上高10%要件は、既存の分野はそのままで、事業計画の終了する3~5年後に、新分野で全体の売り上げを10%以上確保することです。新分野をメインの分野にする必要はありません。10%以上という数値は、確実性のあるものでなければいけません。
丸亀正麺のドーナツ販売
最近話題となっているのが、埼玉県戸田市の丸亀正麺のドーナツ製造販売です。「丸亀製麺のうどんが57%はいった」ドーナツがキャッチフレーズ。SNSで話題になり、早く行かないと売り切れてしまうとのこと。
メインは細分類の「めん類製造業」、そしてドーナツは細分類の「その他のパン・菓子製造業」となるでしょう。丸亀正麺が事業再構築補助金を申請しているかは確認していませんが、コロナで売り上げが減少し、新分野のドーナツで売り上げの10%を達成できれば、りっぱに要件をクリアしていますね。ドーナツ製造の設備投資は必ず必要ですから。
事業転換
事業再構築指針の手引きによりますと、
「事業転換」とは新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更することなく、主たる事業を変更することを指します。
「事業転換」に該当するためには、「製品等の新規性要件」、「市場の新規性要件」、「売上高構成比要件」の3つを満たす(=事業計画において示す)必要があります。
となります。
「総務省が定める日本標準産業分類」の「中分類、小分類又は細分類の産業」を転換することにあたりますね。中分類という大きなくくりから細分類という小さなくくりまで、範囲は広いです。
製品等の新規性要件には、「主要な設備を変更すること」が加わります。新分野展開ではメインではありませんでしたが、事業転換ではメインの事業に対して設備変更が必要になります。これに対して補助金が支給されることになります。
さらに新分野展開と異なるのは「売上高構成比要件」です。これをメインの事業にする必要があります。転換する事業の売上高比率が、3~5年の間にもっとも大きくなるようにすることです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF12C900S1A510C2000000/?unlock=1
には、チョコレート専門店から洋菓子に事業転換した例があります。
日本標準産業分類の細分類、「その他のパン・菓子製造業」から、「ビスケット類・干菓子製造業」への転換にあたります。
業種転換
事業再構築指針の手引きによると、
「業種転換」とは新たな製品等を製造等することにより、主たる業種を変更することを指し
ます。「業種転換」に該当するためには、「製品等の新規性要件」、「市場の新規性要件」、「売上高構成比要件」の3つを満たす(=事業計画において示す)必要があります 。
です。
「総務省が定める日本標準産業分類」の「大分類の産業」に範囲が大きく広がっています。
くくりが大きく広がっていますが、考え方は「事業転換」と同じです。つまり、新しい業種をメインの業種にしていくことです。
業態転換
事業再構築指針の手引きによると、
「業態転換」とは製品等の製造方法等を相当程度変更することを指します。
「業態転換」に該当するためには、「製造方法等の新規性要件」、「製品の新規性要件」(製造方法の変更の場合)又は「商品等の新規性要件又は設備撤去等要件」 (提供方法の変更の場合)、「売上高10%要件」の3つを満たす(=事業計画において示す)必要があります。
となります。
業態転換は、製造業と非製造業(サービス業等)で異なります。
製造業(製造方法の変更)
製造方法を新しくするとともに、製品の新規性も必要になります。このことにより、売上高10%を目指します。
非製造業(提供方法の変更)
商品・サービスの提供方法を新しくするとともに、新商品を作るか今まであった設備撤去を必要とします。このことにより、売上高10%を目指します。
わかりやすい例では、レストランがコロナの影響で客が減少し、今までの知名度を生かしてネット販売に切り替えることによって、これまでの店を撤去あるいは縮小することがあるでしょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF12C900S1A510C2000000/?unlock=1
には、居酒屋からプリン製造販売に大きく業態転換した例があります。
「宿泊業、飲食サービス業」から「製造業」への大きな業態転換にあたるでしょう。
事業再編
事業再構築指針の手引きによると事業再編とは、
「事業再編」とは会社法上の組織再編行為等を行い、新たな事業形態のもとに、新分野展開、事業転換、業種転換又は業態転換のいずれかを行うことを指します。
「事業再編」に該当するためには、組織再編要件、その他の事業再構築要件の2つを満たす(=事業計画において示す)必要があります。
となります。
要するに、今までの4つの事業再構築要件(新事業転換、事業転換、業種転換、業態転換)に組織再編が伴うことです。
組織再編とは、合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡を意味します。
中小企業卒業枠
事業再構築指針の手引きの定義では次のようになっています。
中小企業卒業枠は、事業再構築を通じて、資本金又は従業員を増やし、事業計画期間内に中小企業等から中堅企業・大企業等へ成長する中小企業等を支援するための特別枠で、申請に当たっては、通常枠の要件に加え、①組織再編要件、②新規設備投資要件、③グローバル展開要件のうち、いずれかの要件を満たす(=事業計画において示す)必要があります。
中小企業から卒業して中堅企業に成長することが目的です。それも、事業計画期間内(3~5年)に達成しなければいけません。かなりハードルの高いことだと思います。
中小企業かどうかは資本金と従業員数で決まり、「公募要領」の「2.補助対象者」でわかります。
事業再構築補助金申請の実際
これまで見てきたように、事業計画書を作って申請し、実際に事業を始めてから事業報告をして補助金を取得するのは、慣れていない事業主には大変です。中小企業庁の作成したこちらのYouTube で解説しているように簡単なものではありません。
中小企業等の思い切った事業再構築への挑戦を支援 事業再構築補助金のご案内 =実践編= – YouTube
実際、事業計画書を15ページ書くのは大変な作業です。忙しくてなかなか時間もとれないでしょう。国の認定支援機関でも、長時間にわたって支援してもらえるとは限りません。同じ内容であっても、書き方によっては承認されない場合があります。
第一次公募は終わっていますが、実際申請して不合格になった事業者がかなり多いようです。ほんの思いつきで申請して。簡単に通るものではありません。準備不足で落ちたことが多いようです。補助金の額が大きいので当然です。
補助金取得で一番大変なのは申請に合格した後です。申請に合格した後3~5年の間は「事業報告」という詳細な報告をしないといけません。この報告が承認されて初めて補助金がおりることになります。
事業報告で最もトラブルの多いのが経費です。公募要領の「7.補助対象経費」をよく理解する必要があります。「対象経費は必要性及び金額の妥当性を証拠書類によって明確に確認できる」ことが必要で、かなりハードルが高いです。
実際はこのように難しい作業となりますので、認定経営革新等支援機関とよく相談して進めましょう。