新型コロナワクチン 在庫は個別接種の医療機関にある

新型コロナウイルスワクチンについて、政府と自治体の間で約4000万回分の所在をめぐる認識のずれが生じている。「市区町村に配分済みだ、在庫として持っている」とする政府に対し、首長らは「在庫ではない、2回目接種分だ」と反論している。

4000万回「在庫」どこに? 国・地方、ワクチンで認識ずれ:時事ドットコム (jiji.com)  2021/7/18

そして政府は、接種の進んでいない自治体への追加配布を減らし、自治体は、ワクチンは十分あるとして接種を推進しておきながら「はしごをはずされた」と怒っている。

争点となっているのは、市区町村の個別接種用のファイザー製ワクチンだ。政府は、6月までに供給した8800万回分のうち、ワクチン接種記録システム(VRS)のデータに基づいた接種実績は4800万回分で、「残りの4000万回分は自治体や医療機関が持っている」としている。

これに対し自治体側は、現在保有するワクチンは「2回目の接種用で在庫ではない」としているのだ。

ワクチン混乱に「現場つかんでない」区長ら怒り噴出|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト (tv-asahi.co.jp)

東京23区長「年内に接種終わらない」 河野担当相に不満噴出<新型コロナワクチン>:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

新型コロナ: 東京・世田谷区長、政府のワクチン削減「根拠ない」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

はたしてそうなのだろうか。

自治体は2500万回分の在庫を持っている

これは、日本経済新聞社の新型コロナウイルス関連ニュースの、「チャートで見る日本の接種状況 コロナワクチン」から借用したもので、7/21のものだ。

新型コロナのニュース一覧(最新順):日本経済新聞 (nikkei.com)

少なくとも1回接種が、4528万6501人
うち2回接種が、   3011万3509人

これから、2回分として必要なのは(1回しか接種していない人)は、この差の 1517万2992人(回)

集計の日付に違いはあるが、自治体の主張する2回分というのは、約4000万回分ではなく、約1500万回分である。その差2500万回分は、政府の主張するように自治体の在庫としてあるのだ。自治体の首長は、実際のワクチンの保管状況を調べずに思い付きでいいかげんなことを言っている。

そもそも政府の最初の配分の仕方が大雑把で、対象者を確認せずに配分している。ここにも問題がある。

これが政府の当初の配分計画だ。

※1箱は195バイアル(1バイアル5回接種の場合975回接種分、6回接種の場合1,170回接種分)です。

医療従事者等への接種に向けた供給見通し

○1回目の接種分
・3/1の週  500箱
・3/8の週  500箱
・3/22の週 200箱
・3/29の週 200箱
・4/12の週 1,200箱
・4/19の週 1,200箱
・5/10の週 1,000箱(1回目接種・2回目接種分の合計)を供給し、対象者が約480万人(※)となると見込んでも、必要量の配送を完了できる見込み

○2回目の接種分
・3/22の週 500箱
・3/29の週 500箱
・4/12の週 200箱
・4/19の週 200箱
・5/3の週  1,200箱
・5/10の週 1,200箱
・5/10の週 更に1,000箱(1回目接種・2回目接種分の合計)を供給し、対象者が約480万人(※)となると見込んでも、必要量の配送を完了する見込み
(※)全国知事会調べ

住民への接種に向けた供給見通し(配送時期)

希望する高齢者に、7月末を念頭に各自治体が2回の接種が終えることができるよう、政府を挙げて取り組んでまいります。

【第1クール】4/5の週  100箱 (各都道府県2箱、東京・神奈川・大阪は4箱)
【第2クール】4/12の週  500箱 (各都道府県10箱、東京・神奈川・大阪は20箱)
【第3クール】4/19の週  500箱 (各都道府県10箱、東京・神奈川・大阪は20箱)
【第4クール】4/26の週 1,741箱 (全ての市区町村に1箱)
5/9までに 4,000箱
【第5クール】5/10の週と5/17の週の合計 16,000箱
※第5クール以降では、1バイアルから6回接種が可能な注射器を配布します。
【第6クール】 5/24 の週・5/31の週   16,000 箱
【第7クール】 6/7の週・6/14の週  13,500 箱
【第8クール】 6/21の週・6/28の週 16,000 箱
【第9クール】 7/5の週・7/12の週  11,000 箱
【第10クール】7/19の週・7/26の週  10,600 箱

合計 89,941箱分

新型コロナワクチンの供給の見通し|厚生労働省 (mhlw.go.jp) より

このような大雑把な配分の結果、離島や人口の少ない村などは、既に18歳以上の対象者全員にワクチン接種が済んでいるところもある。

行方不明の2500万回分はどこに?

それでは、自治体に在庫としてあるはずの、自治体の首長が把握していない行方不明の2500万回分はどこにあるのだろう。

医師会に所属していないとワクチンを配分してもらえない

週刊文春6月3日号には、医師会に所属していないと、個別接種用のワクチンの配分がないという記事が掲載された。(以下は文春オンライン)

医師会に入らないとワクチンが来ない! 現役医師が告発 日本医師会の暗部【全文公開】(文春オンライン) – Yahoo!ニュース

医師会に所属していれば申請通りにワクチンが届く

さらに同時期に、医師会に所属していれば申請通りにワクチンンが届くという記事を見た。(出所については、ネットで追えず)

たとえば、1000回分必要でも、2000回分と申請すれば申請通りに2000回分届くというわけだ。こういうことで、個別接種の医療機関には在庫がたまっているということになる。

やはり自治体は在庫を持っている

このことを裏付ける出来事あった。

北九州市 ワクチン供給1割削減 現場で意外な“事実” 「ワクチン半分余っている」 しかし…(TNCテレビ西日本) – Yahoo!ニュース  2021/7/17

ある看護師の話として、

14日までに約2200人にワクチン接種を行っています。 6月末におよそ5000人分のファイザー製のワクチンが到着していましたが、現時点ではその半分の2400人分が余っている状況です。

「5000人分」というのは申請通りの量ということだ。

このような事態が、全国の個別接種会場の医療機関で発生していると思われる。これに対して医師会は何も把握していない。申請通り配布して、接種状況について何も把握していない。だから自治体の首長も何もわからない。「現場つかんでいない」のは、知事や区長などの自治体の首長なのだ。

しかし、しっかりと在庫調査をして現場をつかんでいる県知事もいる。

新型コロナ: 群馬の市町村へ供給済みワクチン、在庫は4割 県調査: 日本経済新聞 (nikkei.com)  2021/7/17

山本群馬県知事だ。

新型コロナウイルスのワクチン供給に関して、群馬県は県内の市町村におけるワクチンの在庫量を調査した。県内に供給された約125万回分のうち、約4割が未使用で保管中と明らかにした。在庫状況や今後の供給予定を考慮すると、予定通り「11月末までに希望する全県民への接種を完了できる」(山本一太知事)との見通しを示した。

他の都道府県も在庫を調査すべきだ。

管理のしっかりしている自治体は、接種目標達成も早い。接種を希望しない人も含めると、8割は10割に近い。

新型コロナ: 群馬の高齢者2回目接種 7月末で8割 知事「目標達成」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

自治体はワクチンの在庫を今すぐ確認しろ

そもそもこのような混乱が生じたのは、ワクチンの配布と接種状況を市区町村単位に把握できるシステムを作らずに、医師会に丸投げでワクチンを配布した国の責任にある。

しかし、責任問題をここでとやかく言っても新型コロナウイルスの感染は止まらない。

今やるべきことは、自治体が現在のワクチンの在庫を正しく確認することだ。政府も遅ればせながら配布と接種状況を把握できるシステムのリリースを計画しているようだ。このシステムに在庫を反映させて、これからは円滑なワクチン接種体制を確立することだ。

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